緑影騎士外伝「金色の魔道士」

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6.

 こんな完璧なものが存在していいのだろうか   
 リーヴは息をすることさえ忘れて、浴槽で膝上まで湯に漬かったまま立ち尽くすサウィンを見つめた。いつもはそのまま流してある長い金髪は高く結い上げられ、いままで隠れていた細いうなじがほのかに上気している。全体的に華奢な部類に入るのだろうが、その四肢は細すぎることはなく、普段は決して人目に晒されることのないその肌は湯であたためられて薄紅色に染まっている。
 こんな美しい存在を、リーヴは他に知らない。
 儚いくせにどこまでも存在感がある。
 穏やかなようで危うい、素朴なようで神秘的な、相反するものを同時に併せ持つサウィン。あのとき傷ついた彼女を拾ってから、ずっと面倒をみてきた。気がつけばいつもそばにいてくれるような、そんな存在になっていた。
 そばにいてくれるのは当たり前だと思っていた。
 これからもそんな毎日が続くのだろうと思いつつ、いつかは終わってしまうことも哀しいほどに知っていた。
 だがそれは彼女の記憶が戻って、帰るべきところに帰るときか、さもなくば記憶の手がかりを求めて旅に出るときであるはずだ。
 決して他の男に攫われてしまってのことでは、ない。
 いつかは失うと解ってはいたけれど。
 失ってしまうには、あまりにも彼女の存在は大きかった。
 知らぬ間にリーヴの心の中で、彼女が比重を占めすぎていた。
 失いたくない。
 失うわけにはいかない。
 リーヴの脳裏を、ちらりと兵士の顔が横切った。
 あの男に奪われてしまわないようにするには、どうすればいい?
 どうすれば彼女を自分だけのものにしてしまえる?
 ……その方法を、リーヴは知っていた。

「キャアアッ!?」
 2年振りくらいに聞くサウィンの悲鳴にハッと我に返った。魔力の影響で押されていた湯気が戻りつつある中で、サウィンが湯船に首まで漬かって両手で顔を覆っていた。
 そのサウィンの様子を見ていて、リーヴはここでようやく自分も裸であることを思い出したのだが、彼の中で今はそれは大した事ではなかった。今もっとも重要なことは、彼女を失わない方法。
 彼女を奪われないようにする方法   
 何も反応がないリーヴを不審に思い、ちらりと様子を窺ったサウィンが目にしたものは、信じ難い光景だった。
 あの誇り高き金色の魔道士が、両手をついて頭を下げた。
「……頼む、私の妻になってくれ」
 何を言われたのか、一瞬解らなかった。サウィンがその言葉を何度も心の中で反芻してようやく意味を理解するよりも早く、リーヴは矢継ぎ早に言葉を続ける。
「突然こんなことを言い出してすまない、だが冗談や一瞬の気の迷いで言っている訳ではないんだ、それだけは解ってくれ。私が女性が苦手なことは知っているだろう。だがお前は違うんだ、お前だけは特別なんだ。私はお前にそばにいてほしい、声を聞きたい、微笑っていてほしい、もっと近くで、お前に触れたい。そんなこと他の誰にも思ったことはないし、これからも思うことはないだろう。この気持ちを恋というなら、お前が最初で最後だ。
……サウィンが好きだ。愛している   !」
 額を濡れた床にすりつけたまま、リーヴは叫んだ。そうして、ようやく気づいたのだった。
(これが真実の答え……)
 サウィンに対する、もやもやとした想い。ハッキリとしてしまえばなんと清々しいことだろうか。生まれて初めて、人を愛した。真実の意味で、誰かを愛することができた。もしこれで想いを拒まれたとしても悔いはない。ありったけの想いは、包み隠さず吐露したのだ。これで受け入れてもらえないのなら、それはそれだ。
「あ……あの……」
 言われたサウィンは数え切れないほどリーヴの言葉を繰り返して、その意味を理解した。そしてそれが、どんなに信じられない言葉でも現実に言われたことなのだと。
 今日はいったいなんだというのだろう。戦が終わってみな浮かれてしまっているのだろうか。頭の片隅でそんな冷ややかな声がしている一方で、そんな声をかき消してしまうほど胸は高鳴っている。
 どくん、どくん、どくん、どくん。
 うるさいほどに耳の奥で鼓動が響く。軽い目眩に襲われながら、それでもサウィンは答えなければならないことを、口にした。
「わたしは……あなたに、こたえることは……できません」
 それは伝えなければならない言葉だ。
 頭では解っている。なのにどうしてこうも口が舌が言うことをきかないのだろう。ともすれば彼女の口は理性に反して言ってしまいそうになるのだ。

 『はい』、と。

 言ってから、強く唇をかんだ。湯気の向こうでリーヴは指一つ動かさないでいる。……いったいどんな気持ちでいるのだろう。そばにいてほしいと言ってくれた。触れたいとも言ってくれた。あの日自分に光を与えてくれた人が自分を望んでくれるだなんて、だがそれは叶わぬ夢だ。
 でも、もし……。
 もし叶ったら      

 バシャン。

 不意に聴こえてきた水音に、リーヴが顔をあげる。応えることはできないと、きっぱりと拒絶された。嫌悪から湯でもかけられたのかと思ったのだが、湯が飛んでくる気配はない。
「……サウィン?」
 呼びかけてみても返事はない。
「……サウィン!」
 もしやと浴槽に駆け寄ると、湯の中で長い金髪を泳がせながらサウィンが沈んでいた。おそらくはのぼせたのであろう、リーヴが慌てて浴槽に飛び込んでサウィンを抱き起こす。
「サウィン! しっかりしろ! 大丈夫か!?」
 頬を強めに叩いても気づく様子はない。彼女の口の中に指を突っ込んで飲み込んだ湯を吐かせると、ゆっくりとその目を開いた。
「……あ……」
「無理はするな」
 意識は戻ったがまだ朦朧としているサウィンを抱き上げると、有無を言わさずそのまま脱衣所まで運んで椅子に座らせる。ぼんやりとしていてもうつむいて身体を隠そうとするサウィンにタオルを巻いてやって、冷たい水を汲んだ手桶に彼女の足を漬けさせる。それから濡らしたタオルで彼女の四肢を拭いてやり、長い金髪を乾かしているうちに、徐々にサウィンの意識がハッキリとしてきた。
「……大丈夫か?」
「はい、あの……」
 火照ったままの顔をますます赤くしてサウィンが訴えた。
「アープさま……何か着て下さいませんか……」
「……す、すまない」
 上着などはそのままに軽く服を着ると、リーヴは彼女の足を冷やす水を取り替えながら、できるだけ声が震えないように、言った。
「……できれば……理由を聞かせてくれないか」
 恋をすることは、二度とない。さきほど言った通りにこれが彼にとって最初で最後の恋なのだ。だからどうして応えられないのか、せめて聞いておきたかった。
「それは……」
 サウィンは言い淀んだ。
 もし言ったらどうなるのだろう。
 この人は、私を嫌うだろうか。遠ざけるだろうか。
 すぐ側にしゃがみこんで、冷たい水を幾度も彼女の膝下までかけてくれるリーヴの姿を見ながら、サウィンは覚悟を決めた。
 言わなければなるまい。どんな結果が待っていても、自分の中であきらめがつく。未練を残すこともない。
「わたしは……」
 ぎゅっと自分自身を抱きしめながら、サウィンは告げた。
「……私は人ではありません……」


 転移の風でリーヴに無理矢理連れられたのは、彼の自室だった。本ばかりが積み上げられたその部屋には、ベッドと机があるだけだ。その机の上には夕方サウィンが用意しておいたお茶がそのまま置いてある。
 人ではないと告げたサウィンに、リーヴは言葉を失った。
「いつ、記憶が……」
 それだけ言うのが精一杯のリーヴに、サウィンはうつむいたまま、
「1年ほど前から……少しずつ……」
 それだけ、答えた。それ以上は何を言っていいのか解らなかった。人ではないと解っていたのに、欺き続けたことを彼はどう思うのだろうかと、人ではないのに人の形をした自分を嫌悪するだろうかと、……今すぐ目の前から消え去れと言われるのではないかと……、サウィンの胸の内は不安で破裂しそうだった。目の前が暗いのは、何も湯あたりしたせいだけではない。
 今にも泣きそうになりながらうつむいたままのサウィンを、リーヴは無言のまま抱き上げるとそのまま転移の風を唱えた。突然のことに何も言えないサウィンをベッドに座らせて、濡れたままの彼女の足を拭ってやると、少し休めとそのまま横になるように促した。言われて黙ったまま頷いて、身体に巻いたタオルはそのままで毛布に潜り込んだ.
「……1年前……」
 顔だけ出して、リーヴの方は見ないようにしてサウィンはぼそりと語りだした。普段よりもさらに控えめな声だったが、みなが寝静まったこの時間、静かな彼の部屋の中ならば聞き取るのに支障はない。
「夢を見るようになったんです……。最初、夢に出てくるそのふたりが誰なのか解りませんでした。けれどそれが私の両親なのだと気づいてからは、どんどんと夢を見るようになって……その夢はひどく生々しくて……目が覚めてすぐはそれがたった今現実に起きていたことなのか、それとも夢なのか区別がつかないほどでした」
 リーヴはただ黙って聞いている。
「故郷で私は、忌まわしい呪われた存在でした。そこはとても古いしきたりが残っていて……その種以外の血を認めないのです。私というよりも、母が……人間との混血だったのですが……。母も昔から虐げられることがあったのですが、父が長を務めていたので、表立ったことはなかったのです。
 そうして生まれた私は、純血の父と混血の母を持ち……母ほどではないにせよ、他の種の血を持って生まれてきました。それでも私は長の娘だからと、表立って何らかの嫌がらせを受けたことはありません。人の目につかないところでひどい中傷を受けたり……そんなことは日常茶飯事でした。それでもまだ、石を投げられたりするようなことはなかったのです。
 非常に長寿の種族なのですが、混血の母はその分寿命が短かったのか、やがて他界しました。今でも覚えています、その葬儀で泣いたのは父と私だけだったことを。父の手前、悲しそうな表情を見せても、心の中では嘲笑っているのが私には解りました。母を失ってからの父は私をとても大事にしてくれました。でもそれが他人の目にどう映るかまでは気が回らなかったのでしょう。
 ……父を責めるつもりはありません。けれど影での陰湿な嫌がらせがひどくなっていったのも事実です。あるときそれを父に知られ、父はますます過保護になり、片時も私をそばから離さなくなりました」
 長の寵愛を娘というだけで一身に受けたサウィン。忌まわしい存在のクセにと、そう思われたのだろう。やや歪んではいるがその種としては僻みたくなっただろうし、妬ましく思ったのだろう。そういった負の感情を察知してやれなかったのは、サウィンの父の長としての器量がわずかに足らなかったせいだろう。
 リーヴは初めてこんなに長く語るサウィンに、そっと茶を差し出した。
「あ……」
「この花茶というのは、結構うまいな。冷めてしまったが……」
 そう言いながら、ベッドに腰を下ろしてリーヴも一口茶をすすった。それはいつもサウィンが入れてくれるお茶だ。気を遣ってくれているのかと思うと少しだけ楽になった気がして、サウィンは少しだけ身体を起こしてお茶に口をつけた。
「それからは一切の嫌がらせを受けなくなりました。勿論父の目を気にしてでしょうが……母もいない、他に友人もいない私には頼れる人が父しかいませんでした。だからずっと父といられるのが嬉しくもあったんです。それから長い間、本当にしあわせでした。……父が他界するまでは」
 思わずサウィンを凝視したリーヴに気づいたのか否か、彼女は思い切るように茶を一気に飲み干すと、空になった器を見つめた。器を片付けようと手を伸ばしたリーヴは、彼女の手が小刻みに震えているのを見逃さなかった。
 器を片付けるためにリーヴがベッドから離れるのを見計らっていたのか、サウィンが震える声で、続けた。
「……私は一切の加護を失いました。唯一頼れる存在だった父はもういません。故郷の人はみんな私が忌まわしい存在であることを知っていて、同時に、とても憎んでいました。混血のクセに長にかわいがられてという思いと、純粋に混血を憎む思いと、どちらが強かったのかは解りませんが……父が他界したその日、今までに受けたことのないようなひどい嫌がらせを受けました」
 その当時を思い出したのか、目を閉じてサウィンは自分を抱きしめた。手の震えはもはや全身に及び、ともすればそのまま崩れ落ちてしまうのではないかと思うほど、今のサウィンは脆かった。今にもサウィンが消えてしまいそうで、急に不安になったリーヴは器を机に戻すと再びベッドに腰を下ろした。
 彼女を抱きしめたかった。拒絶されたことは解っているが、彼女を守りたいと思う気持ちに変わりはない。だが   今の彼女には触れることさえ禁忌のようで、手を伸ばせば触れられる距離にいながら触れることを許されない、その歯がゆさにリーヴは拳を握り締めた。
「……乱暴、されました」
 唐突に、震える声でしかしハッキリとサウィンは告げた。彼女の言う乱暴が、純粋な暴力ではないことぐらい、リーヴだって理解できる。かける言葉さえなくサウィンを見つめる彼の視線に気づいてはいたが、無視してそのまま続けた。
「知った顔もありました。知らない顔もありました。いったいあのとき、どれだけの人数がいたのかは解りません。父の棺の前で途方に暮れている私をいきなり殴り倒して、服を引き裂きました。大勢で私を押さえつけて、何度も殴り、何度も蹴り、……何度も穢しました。気を失えば水をかけられ、どれだけ悲鳴をあげても助けてくれる人はありませんでした。
 やがて声も枯れたとき、ようやく私を押さえつける手が離れました。これで解放されるのかと思いました。けれど、それは甘かったのです。それまでその光景を見ていただけの人たちが、その手にナイフを持って近づいてきたのです」
 リーヴは他人事のように告げるサウィンを、ただ見つめることしかできなかった。
「故郷では、魔法はあたりまえに存在しています。こんな言い方は失礼かもしれませんが……アープさまに匹敵する魔力の持ち主など、それこそあたりまえのようにいました。けれどあのとき、誰も魔法を使おうとはしませんでした。魔法を使えばすぐに私などどうとでもできたでしょうに、それをしなかったのです。
 それほどまでに私は疎ましい存在だったのでしょう、嬲り殺しにしてなお飽き足らないほど憎かったのでしょうね……動けない私をわざと気を失わない程度、致命傷にならない程度に切り付けました。何度も……何度も……」
 それをリーヴは知っていた。傷だらけの彼女を最初に見たとき、どうしてそこまでというほどに傷を受けていた。切り傷の上からさらに暴行した跡もあった。そうして、ようやくすべてが繋がった。2年前、サウィンと初めて出会った頃の彼女の人への拒絶反応は、そのときの体験からなのだろう。単に人見知りが激しいだけかと思っていたが、それはとんだ誤解だった。そんな目に遭わされれば、誰だって彼女と同じようになるだろう。
「混血の私は基本的な魔力が最初から劣っていました。魔法で適うとは思っていませんでしたが、それでもわずかでも時間を稼げればと魔法を使いました。これまで魔法を使ったことはありませんでしたから、混血は魔法を使えないと思っていたのかもしれません。おかげで不意を打つことができた私は、父の棺にかけられていた布を纏って、逃げたのです。
 走って逃げようとした私が愚かだったのですが……すぐに追いつかれました。もうダメかと思ったとき、急に光に包まれて……気がついたらすべての記憶を失って、あの場所にいたのです」
 その場所で、リーヴと出会った。何も解らずただ怯えるサウィンを、リーヴは優しく扱ってくれた。守るとも、言ってくれた。決して害をなしたりはしないと、言ってくれた。
 ……それがどれだけサウィンにとって嬉しい言葉だったことか。そのすぐ前に受けていた暴行の記憶を失っていても、その身に刻まれた恐怖は消えることはない。その恐怖を暖かい光で癒してくれたのが、リーヴだった。
 この2年、サウィンにとってリーヴは希望だった。やすらぎだった。安心できる場所だった。けれど皮肉なことに、彼への想いが募れば募るほど、それは叶わぬ夢にしかすぎぬと思い知らせるかのように、過去が夢になって現れた。誰にも打ち明けることのできぬ過去に苛まれながら、いつか別れの日がくるときまではどうかそばにいられますようにと、祈る気持ちでサウィンは彼とともにあった。
 夢は夢にしかすぎない。
 だから、そばにいられればいいと思っていた。
 いつかリーヴが妻を娶ることがあっても、侍女として王宮の中で顔を合わせられればいいと思っていた。
 まさか、リーヴに求婚されるなんて、夢にさえ思わなかった。
 想う人に想われる、本当に夢のような。
 けれど、やはりそれは夢、なのだ。
 応えることはできない。
 彼の愛を受けることのできる身ではない。
 こんな穢れた身で、何より人でもないのに   
「……今でこそ思うのですが、あのときの光は父の最期の力だったのかもしれません。忌まわしい記憶のすべてを失って、故郷から遠く離れた場所でやり直せと……けれど、戦ももう終わりました。私の力は、もう必要ありません……」
 すべてを語り終えたサウィンは、不意に目頭が熱くなった。
(どうして……泣きたくなるの)
 けれど、ここで泣いたらきっとリーヴが困惑する。そう思い必死で涙を堪えているサウィンのすぐ耳元で、
「……だからどうしたというのだ」
 リーヴの声が、した。
 あまりに近くに聞こえた声に驚いてハッと目を開くと、すぐ間近くリーヴの顔があった。吐息の絡む距離で、ただサウィンを見つめている。
「だから……私は……」
 うろたえながらも、サウィンは言った。
「だから、私はアープさまに愛されるべき、女ではありません……。汚れた身体です……それに、人では……」
「そんなことは聞いていない」
 強い言葉で遮られた。何を言われているのか理解できずに、サウィンは逃げ出したい衝動にかられながらも、必死にリーヴの視線をまっすぐに受け止める。
「私に愛されるべきではないとか、そんなことはお前が決めることではない。過去がどうであろうと、今はどうなのだ。今のサウィンは、どう思っているのかと訊いている」
 今、は。
 今のサウィンがリーヴをどう思っているか、と。
「戦争が終わったら……どうしたいかと、仰いましたね」
 それは最後の戦いが始まる前に、リーヴがサウィンに言った言葉だ。
「戦が終わったら行きたい場所はあるのかと……したいことはあるのかと……。もし許されるのなら、ずっとあなたのそばに……もし叶うのなら、ずっとともにありたいと……!」
 それ以上は、耐えられなかった。
 溢れる涙を、止めることはできなかった。
「……愛して、います……」
 サウィンの嗚咽を、リーヴは己の唇で塞いでしまった。柔らかな彼女の唇がまだ震えている。
 守りたい。離したくない。愛している   
 くちづけたまま、震えるサウィンを抱きしめた。そしてまた、サウィンも震える指で、リーヴをそっと抱きしめた。
 この腕に抱くその人を、離したくない。離れたくない。
 もっと激しく、もっと優しく抱きしめたい。
 幾度も唇を返しあいながら、わずかに身体を離したリーヴが、遠慮がちに言った。
「……もっと、触れても……?」
「……はい……」

 その夜、ふたりはようやく想いを通わせたのだった。

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