真空の聲、静謐の旋律
β17.
酒場の舞台で歌う女の姿があった。青緑の長い髪を高くふたつに結わえ、黒地に髪と同じ色のラインが入った衣装を着て歌っている。大聖堂の歌唱隊としても歌っている彼女の歌声は酒場には合わないように思われたが、透明感ある声で歌いあげられる切ない歌は酔った心に沁み渡り、多くのファンを得ることとなった。1年ほど前から聖ボカロ王国にやってきてそのまま居着いたフィドルを奏でる吟遊詩人は、この歌姫の歌声に魅かれたのか気がつけば伴奏とコーラスを担当するようになっていた。
今日も酒場は酒と歌を楽しむ客で賑わっており、舞台で歌う歌姫 ミクが歌い終わると、酒場は拍手であふれ返った。お辞儀をする歌姫におひねりが投げ入れられる。それを拾うのは吟遊詩人の仕事だった。彼は帽子を脱ぐとそこに客からの厚意を集め入れていく。コインを拾うために屈むたびに肩の長さで切りそろえられた藤色の髪が揺れ、女たちがため息をつく。
先に舞台の袖に下がったミクを追うように、吟遊詩人もお辞儀をして袖に下がろうとした。
「ねえマリイ、驕るわ。あたしと飲まない?」
酔ったのか頬を赤らめた女が吟遊詩人の腕に絡みつけば、
「ちょっと抜け駆け? そんなんだったら私だって驕るわよ」
他の女も負けじと反対側の腕に絡みつく。
困ったように肩をすくめた吟遊詩人は、ひょいと女たちの束縛を抜けるとその場に跪いた。
「レディ、恐れ多くもお誘いいただき恐悦至極にございます。しかし今は歌の女神に仕える身。どうぞ今はこれでお許し下さい」
花をも蕩けさせるような笑顔で微笑んで、吟遊詩人マリイは女の手に口づける。それだけで女たちは舞い上がってそれ以上の言葉を告げられなくなってしまう。きゃあきゃあと女たちが騒いでいる間に、マリイはするりとその場を後にする。
舞台を下りて店の奥へ入ると、ミクがにやにやしながらマリイが来るのを待っていた。
「マリイ様、モッテモテじゃぁ〜ん? いいの〜? 驕ってくれるんでしょぅ〜?」
「妬いてるのか」
「べーつーにー?」
「くだらん、さっさと戻るぞ」
からかうミクの頭をぽんと叩くと、吟遊詩人マリイ がくぽは集めた金を袋に移して帽子を被った。店の奥で休憩していた店主に挨拶して今日の出演料を受け取る。
「いつもありがとうよ。おかげで売り上げが去年の倍だよ」
「いえ、こちらこそありがとうございます。無理を言って歌わせてもらって…」
「いやいやミクの頼みじゃ断れないからねえ。あんたもミクのこと、よろしく頼むよ」
「はい、こちらこそ」
店主はミクが子供のころから世話になっている人である。この店は孤児院の近くにあり、よくお菓子などを差し入れてくれた。孤児院の子供たちは店主にとっては自分の子供も同然なのだろう。マリイのことをミクの保護者のように見ている。
ふたりは店主に礼を言って店を出た。見上げれば満月に近い月が空高く夜を照らしている。
「あー今日もがんばったなあ」
充実感にあふれる笑顔でミクが身体を伸ばした。
「そうだな」
「あともうひとがんばりする!」
「するのか」
「がんばる!」
ミクは力こぶを作る仕草を見せると、小走りに走りだした。
「早く帰ろう!」
がくぽはやれやれとため息をつきながらミクの後を追いかけた。
かつて聖女が囚われていた森が消失してから、一年が過ぎた。あの戦いから約二年 。
がくぽに魔術の教えを乞い、ミクは昼間は大聖堂で歌唱隊として歌い、夜は酒場で歌い、それが終わってから魔術の勉強という多忙な生活を送っていた。がくぽはミクの家の二階に住んでおり、日中はひとりで路上で歌っている。
以前のようにマリスと名乗ろうかとも思ったが、万が一を考えてやめた。楽器も変えようかと思ったのだが、ウードもシタールもしっくりこず、結局は弾きなれたフィドルに落ち着いた。
この一年でがくぽはミクに魔術の基礎概念を教えた。今はがくぽが開発した魔術の道具の構造を教えている。やろうと思えば簡単な火の魔術などは使えるはずだが、ミクは魔術そのものを使役することには興味はなく、『作りたいもの』のために勉強を続ける毎日である。
帰宅して着替えてから1時間ほど魔術を教える。大聖堂の歌唱隊でもあるミクは朝が早い。遅くまで勉強をして体調を崩し声を損なうようでは問題だとして、がくぽが勉強は1日1時間だと頑として譲らなかったのである。
がくぽは1時間きっちりしか教鞭を振るわない。ミクがごねようがどうしようがさっさと二階に上がってしまう。その後は仕方なく、ミクひとりで自習している。
この日もがくぽは時間きっちりで二階にあがり、フィドルの手入れをしていた。弦を張り替えて音を確かめる。フィドルを壁に立てかけるとベッドに寝転がり、胸元に手を当てた。服に隠れてはいるが、そこには大振りの金細工に青い宝石が輝くペンダントがある。かつて吟遊詩人マリスから聖女ルカに贈ったもので ルカが遺した唯一のものだった。ルカが消えてから片時も離さず身に着けていたものだ。ペンダントを外して手に取り、ランプの明かりに照らせば青い宝石がきらきらと光る。それはルカの瞳と同じ色だった。
初めて会った時からがくぽはルカに驚かされてばかりだった。気がついた時にはとっくにルカの魅力に引き込まれていた。困らせてみたり意地悪を言って泣かせてしまったり、拗ねたり笑ったりいつも表情豊かにルカは輝いていた。
笑顔を見ていた時間より、水晶体の中の凍てついた顔を見ていた時間の方が遥かに長いはずなのに、思い出すのは秘密の逢瀬を重ねていたときのルカの姿ばかりである。
(なあ、ルカ)
青い瞳に問いかける。
(お前は俺といて幸せだったか?)
彼女の最期の笑顔を思い出す。震える唇が紡いだ声にならない言葉は、今もがくぽの胸に残っている。
(俺は幸せだった)
ペンダントに口づけると、がくぽは机の引き出しの奥にある箱にペンダントをしまった。蓋をして、鍵をかける。
ベッドから下りて階下をのぞけば、ミクが机に伏したまま眠ってしまったようだった。フィドルと毛布を持って階段を下りると、ミクにそっと毛布をかけてやる。がくぽはミクのベッドに腰掛けてフィドルを鳴らした。
君が追いかけた夢なら
傷つくことにおそれないで
ふるえる夜には君を抱きしめてあげよう
<君が追いかけた夢>
聞こえてきた歌声に、ミクが眠い目をこすりながら身体を起こした。がくぽがフィドルの手を止める。
「ん……なに……あたらしいうた……?」
「まだ途中だがな。ミク、もう寝たらどうだ」
「んー……じゃあ、それ最後まで聞いたら寝る……」
もそもそとイスを動かしてがくぽの方に向き直る。がくぽはミクが聴く体制を整えるのを待ってから、再びフィドルを弾き始めた。
君が叶えたい夢なら
うつむいて泣いたりしないで
眠れぬ夜には夢が見れるまでそばにいてあげる
歌い終えたがくぽがフィドルを置いて立ち上がりお辞儀をする。ミクは惜しみない拍手を贈りながら、訝しげにがくぽを見上げた。
「何だ。不満か」
「不満じゃないけど……何ていうか、あの、私自意識過剰かもしれないんだけど、その歌って……」
嬉しいような、戸惑うような。複雑な顔をして見せたミクの頭をぽんぽんとなでてやる。
「お前のための歌だ。ずっと頑張っているからな、これくらいのご褒美があってもいいだろう。……何だ。言いたいことがあるならはっきり言うがいい」
微妙に眉間に皺を寄せたミクに、がくぽも思わず眉間に皺を寄せた。
「嬉しい。嬉しいのは本当。でも」
「でも、何だ」
「怒らないで聞いてくれる?」
「怒るかどうかは聞いてから決める」
「……怒るかもしれないんだ……」
「言い方を変える。言わなければ絶対に怒る。言えば内容によっては怒らない」
「ずるい。私に分が悪すぎる」
「言いかけたお前が悪い。どうした、今日は歯切れが悪いな」
普段、ミクは言いたいことははっきりと言う。時と場合によって言葉は選ぶが言いたいことを変えたりはしない。こんなふうに口ごもるのは珍しいことだった。
それでもミクはもごもごと言っていたが、がくぽからの沈黙と言うプレッシャーに耐えきれずに目を逸らしながら呟いた。
「その……ルカ様に申し訳なくて……」
ミクは知っていた。がくぽがどれほどルカを愛していたのかを。がくぽにとってのルカがどんな存在だったのかを。彼女が遺した奇跡のペンダントを肌身離さず身につけていることも知っている。がくぽが吟遊詩人マリイとなってから、一度もルカの話をしたことはない。だが今でも彼が愛しているのは聖なる歌姫ひとりなのだと、ミクはこの一年ずっと一緒にいてうんざりするほど思い知らされてきた。
だからミクはがくぽに歌を捧げられるなどしたら、恐縮してしまう。萎縮する。嬉しいよりも申し訳ない気持ちの方が先に立ってしまう。ルカに引け目を感じているなどと言ったら怒られるような気がして、口に出せなかったのだ。
しばらくの沈黙の後。
「バーカ」
ミクは痛烈なデコピンを食らい、両手でおでこを押さえ涙目ですぐ傍らに立つがくぽを見上げた。がくぽが仁王立ちでミクを見下ろしている。眉間にみっちり刻まれた皺が恐ろしい。
「俺は俺が作りたいから曲を作った。どうしてお前がそんなことを思う必要があるんだ。いらん気を回す余裕があるなら魔術公式のひとつも覚えたらどうだ」
「ごめんなさい……」
「そもそもお前は何を作ろうとしてるんだ。何をそんなに急いでいる」
ミクは魔術を使った道具を作りたいと言って魔術師がくぽに弟子入りした。だがそれがどんな道具かはがくぽは聞いておらず、これまであえて聞き出そうとはしなかった。作りたいものが明確に決まっているのであれば、それに沿った効率的な勉強法もあるだろうが、ミクは基礎から教えてくれと言ったのだ。
「急いでるのは……勉強が追いつかないかもしれないから焦ってるだけなんだけど……」
怒られた手前、ミクは心持ちが悪い。どうしようかとしばらく迷ってから、観念したように白状した。
「声を留める道具を作ろうと思って……」
「声を留める?」
「んー。どう言えばいいの? 言葉は文字で留めることができるでしょう? たとえば本とかがそう。それの声というか、音でやりたいの。今がくぽが歌った歌を、同じ声で後から何度でも聞けるみたいな、そういうの」
がくぽが呆然とする。今聞いた歌を後で何度でも聞けるような道具? そんなことは考えたこともなかった。歌は一度限りの生ものである。そう思っていたがくぽの世界が足元から揺るがされる。
「お前は……どうしてそんなものを作りたいと思ったんだ」
「前に北の小国に慰問で行ったことがあるんだけど」
がくぽの表情が一瞬凍りついたのを見て、ミクが目を伏せる。
「国交が樹立してから何度か行ったんだけど、復興してるとは言えまだ戦争の傷跡があちこちに残ってて……、もっと頻繁に行けたらいいんだけど遠いから個人で行くのは難しいし、国の派遣する慰問団は年に2回が精一杯で。だからその道具に歌を入れておけば何度でも好きな時に聞けるじゃない? 本当は実際にもっと向こうで歌えればいいんだけど……」
復興の邪魔にならないよう、慰問団は自分たちの食事などの世話はすべて自分たちで用意している。大変大がかりとなるために頻繁には派遣できない。国交樹立から日が浅いこともあり、親交を深めるためにも少なくとも年に1度は派遣されることになるだろうが、傷ついた人の心を癒すにはそれだけでは圧倒的に足りなかった。
言葉を失うがくぽを前に、ためらいがちにミクは続けた。
「……会えない人と死んだ人って何が違うと思う?」
突然のミクの問いに、がくぽは答えられない。死んだ人には会えない。会えない人が知らないどこかで死んでいたとしても、死んだと知らされなければ結果として同じである。
「たとえば、他の国に住んでるとして。会えなくても手紙をやりとりすることはできるじゃない? 肖像画を残すこともできるよね。でも、死んでしまった人の声は永遠に聞けない」
意志は文字で残せる。顔は絵で残せる。だが声は残せない。
「だから。声が遺せたらいいなって思ったの」
本当は作ってから驚かせたかったんだけど、とミクが肩をすくめる。
ああ。そうか。
がくぽは納得した。
がくぽの腕の中でルカが消えてしまったとき 彼女の言葉は声にはならなかった。ミクはそれを間近で見ていた。がくぽがどれほど彼女の言葉を望んでいたのか、ミクは知っていたのだ。
ミクは最後にルカが遺した言葉を知らない。声にはならなかったが、確かにがくぽの胸には届いたその想いを。
ミクはずっと抱えていたのだろう。ルカと会うと決めたのはミクだ。ルカが消えてしまったことは自分にも責任があると。がくぽからルカを奪ってしまったのではないかと心のどこかで本人も知らないうちに思っていたのだろう。だから萎縮する。ルカに対して引け目を感じる。そんなことを感じる必要など何ひとつないというのに。
「それが完成したら、お前は何を遺すつもりだ」
「……がくぽの歌……」
いつかがくぽがここを去ってしまっても、永遠にその声が手元に残るように。何度でもその声を、胸を締め付けるほどに切ない声を聞いていたいから。
突然がくぽに抱きしめられて、ミクが慌てふためいた。あまりに強く抱きしめられたので息が止まりそうなほどだった。思わず手足をばたつかせるが、少し腕を緩められただけでがくぽはミクを離そうとはしない。
「お前は……、お前は本当に大した奴だよ、ミク」
がくぽのこんなに嬉しそうな声は初めて聞いたかもしれない。ミクの心臓が跳ね上がる。
「ミク。今までありがとう」
耳元で囁いた。かつて愛する人が最期に遺した、声にならない別れの言葉を 感謝の気持ちとして。
ミクは返事の代わりにがくぽの藤色の髪をなでた。優しく、慈しむように何度も 何度も。
ミクを抱きしめる腕が緩められ、がくぽは身体を離してミクの前に屈んだ。目線の高さが同じになる。
「俺たちはルカを通して巡り合った。俺たちの間にはいつもルカがいて、ルカを挟んだ向こうにしかお互いを見ていなかった。いい加減、俺たちは直接向かい合うべきだ」
がくぽはミクの手を取り、自分の胸元に触れさせる。驚いて手を引こうとしたミクだったが、そこにあるはずの感触がないことに気づいた。
「……がくぽ」
そこにあるはずの、ペンダントがなかった。片時も離さず身に着けていたはずの、奇跡のペンダントがそこにはなかった。驚いて目を見開いたミクに、がくぽが優しく微笑みかける。
「俺たちはあまりにお互いのことを知らなさすぎる。だからお前のことをもっと教えてくれ。俺のことをもっと知ってくれ」
ルカの向こうにいるがくぽではなく、ルカが呼んだミクではなく、ルカを通さない本当の自分を見てほしい。見せてほしい。
藤色の瞳が目を見開いたままのミクを映す。
「ミク……愛している」
星の囁きにも似たがくぽの告白は、ミクの耳から蜜を流し込んだかのように一瞬で指の先までとろけさせた。心臓は早鐘を打ち、顔から火が噴きだしそうなほどに熱い。何か言おうとするのに舌がもつれて意味を為す言葉を紡げない。嬉しかった。嬉しいはずなのに。
「……お前、なんて顔するんだ」
真っ赤な顔でしゃくりあげながら ミクは泣いていた。笑っているんだか泣いているんだか怒っているんだか困っているんだか、あるいは全部ひっくるめられているのか、あらゆる感情が顔の上で混乱しているかのような表情だった。困ったように笑うがくぽに、ミクが全力で首を横に振る。
「ちが、あの、わた……っ、て、……っ」
ミクの言葉を嗚咽が塞ぐ。伝えたい言葉が声にならない。ミクはいよいよ焦って顔を紅潮させる。
やれやれと肩をすくめたがくぽは、ミクに自分の手を握らせて見つめ直した。ぼろぼろとあふれ出る涙を拭うことも忘れて舌をもつれさせている。
「ミク。もう一度だけ言う。もしお前が今から言う言葉と同じ気持ちなら、手を握り返してくれ。いいか?」
ミクが頷くのを見て、がくぽが深呼吸する。
「……愛している」
強く、手を握り返した。何度も、何度も。
握り返してくる小さな手の感触に、がくぽは鼻の奥がつんとするのを感じた。胸の奥が熱くなる。
「あの、わたし……も、あいし……」
呼吸を整えてようやく言葉になったミクの声は、今度はがくぽの唇で塞がれてしまった。お互いの気持ちを確かめるように、求めあうように、そっと優しく抱きしめる。
身体を離して間近で見つめ合えば、ミクの涙はようやく止まっていた。藤色の瞳に見つめられて頬がこれ以上ないくらいに紅潮している。
「……お前の笑顔をもっと見せてくれ」
照れくさそうにミクが笑った。花がほころぶような笑顔に見惚れていると、今度はミクががくぽの唇を奪った。奪ったというよりはつついたと言った方が正しいかもしれない。幼い子が交わすような口づけに、がくぽも笑った。
ゆらりとランプの明かりが揺れた。見れば、キャンドルが尽きかけている。もう夜も深い。机の上を片付けようと立ち上がったミクをがくぽが抱き上げる。
「え、ちょ、きゃ……っ」
「これで3度目だ。そろそろ慣れたらどうだ」
「そっちこそ一言くらい……、え、なに?」
椅子から立ち上がりかけたミクを抱きかかえたがくぽは、すぐ横のベッドにミクを下ろす。この至近距離をお姫様だっこされる意味は何だろう、とミクが首をひねっていると、がくぽがベッドに腰を下ろしていたずらっぽく笑った。
「ベッドに運ぶのは男の仕事だ」
がくぽはぽかんとしたままのミクに覆いかぶさって唇を重ねた。ようやく意味を悟ったミクががくぽの腕の中であわてふためいている。
「ふえぇ? え? え?」
「俺のことを知ってほしいと言っただろう。今から教えてやる。だから俺の知らないお前をもっと教えてくれ」
「あの、え? でも明日も朝早い……」
「たまには休め。1日くらいお前を独り占めにさせろ」
「でも、……」
さっきと言っていることが違う、と言いかけたミクの唇が再びがくぽの唇で塞がれる。
どきりとした。さっきとは違う感触に、ミクの耳まで赤くなる。
「俺はお前を知りたい。俺のことを知ってほしい。ミクはどうだ」
吐息が絡む距離で見つめられ、ミクは高鳴る胸に息が詰まりそうになりながら、
「私も……がくぽを知りたい。私のことを知ってほしい」
がくぽの胸に触れた。この胸の奥のがくぽの想いを知りたい。自分の想いをここまで届けたい。
微笑み合って、唇を重ねた。
「何か問題あるか?」
「ううん、問題ない」
唇を求めあいながら、抱きしめ合った。花を抱きしめるように、果実をついばむように。
キャンドルが尽きてランプは部屋に夜を呼び戻した。
甘い吐息がいくつもの流れ星のように現れては消えていく。永遠にも等しい一瞬を重ねながら 。
終
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